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道尾秀介さんの『向日葵の咲かない夏』を読了。
ひまわりからは明るい夏を想像するけれど、
ひまわりが咲かない。
この物語は、
小学生の明るい夏休みとはまったく逆の世界だった。
終始漂う不穏な空気。
登場人物たちの歪んだ心、抱える闇。
そして、誰も救われない結末。
読み終えたあと、
重たい余韻がじわじわと引きずられるように残る作品だった。
あらすじ
物語は終業式の日から始まる。
欠席した同級生の家に行った小学4年生のミチオは、
首を吊った同級生の死体を発見する。
しかし、警察が来た時には――死体が消えていた。
ミチオは妹のミカとともに、
同級生の死の真相を探し始める。
※この記事には小説のネタバレが含まれます。
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前半:事件の謎を追うミステリー
物語の前半は、事件の謎解きとして進んでいく。
が、どこかおかしい。
3歳の妹・ミカが、
あまりにも大人びた言葉を話し、
的確な助言をくれるなどの違和感。
それらの違和感は、
物語の後半で大きな衝撃に変わる。
誰が何をしたのか。
なぜ死体は消えたのか。
私もミチオと同じ視点で、
少しずつ真相を追いかけていった。
しかし、
周囲では次々と不穏な出来事が起こる。
現実なのか、それとも別の何かなのか。
読み進めるほどに、
世界の輪郭が曖昧になっていく。
後半:ミチオの変貌
物語の後半では、
ミチオの変化を中心に怒涛の展開が始まる。
一見平穏だった日常が、
少しずつ崩れていく。
登場人物たちが抱える闇が明らかになるにつれ、
物語の恐ろしさが加速していく。
特に印象に残ったのは、
ミチオが泰造じいさんを一切の容赦も無く追い詰めていく場面。
あの時の息詰まるような恐怖は、読了後もなかなか頭から離れない。
この物語の正体:不思議なミステリーではなく“妄想の世界”
読み進めていくうちに気づく。
「現実+少し不思議な世界」の
ミステリーを読んでいたはずなのに、
実際には、
「不安定な少年の主観と妄想で塗りつぶされた世界」の物語だった。
大人びた三歳の妹ミカ。
不思議な力を持つトコお婆さん。
想いを寄せる後ろの席のスミダさん。
彼らとの会話や出来事は、すべてミチオの妄想だった。
ミチオの目に映る「妹」は、実はただのトカゲでしかない。
自分を守るための“物語”
自分の罪を受け止める代わりに、誰かのせいにする。
それは現実の社会でも時々目にする光景だけれど、
それを幼い子供がしていること、
そして内容の重さを思うと恐ろしく、そして悲しい。
自分のいたずらで母を流産させたこと、
不用意な一言のせいで同級生が命を絶ったこと。
そういう現実を受け入れられない少年が、
世界を都合よく書き換えた結果だった。
それは、自分の心を守るための防衛本能だ。
誰もが多かれ少なかれ、
自分に都合の良い「物語」の中で生きている。
ミチオのしたことは、
その本能を極限まで突き詰めた姿なのかもしれない。
「向日葵の咲かない夏」というタイトル
向日葵が咲く夏といえば、
明るい小学生の夏休みを連想する。
しかし『向日葵の咲かない夏』というタイトルは、
そのイメージを最初から裏切っている。
楽しいはずの夏休み。明るいはずの子ども時代。
そのどちらも、この物語には存在しない。
タイトルの時点で、
すでにこの物語の歪みは始まっていたのかもしれない。
本当に誰も救われないラスト
ミチオは最後、
物語を終わらせようとして家に火をつける。
そして両親に助けられる。
一瞬、救われたのかと思った。
しかし最後の描写。
そこに映る影は――一つだけ。
それさえもミチオの脳内の物語だとしたら。
この物語は、本当に最後まで誰一人救われない。
この“救われなさ”が忘れられない方へ
読み終えてもしばらく抜けない、あの後味。同じ感覚を求めるなら、まず同じ道尾秀介さんの『シャドウ』『ラットマン』を。どちらも「見えていた景色が最後にひっくり返る」一冊で、本作が刺さった人ほど効きます。
“この手の闇”をもっと、という方は、毒のある後味で知られる乙一の世界へ。当ブログの考察もどうぞ:
・乙一『GOTH』ネタバレ考察|「僕」の正体を解説
・乙一『ZOO 1・2』考察|ジャンル分け不能と言われる理由
印象に残った言葉
「僕だけじゃない。
誰だって、自分だけの物語の中にいるじゃないか」
「自分がやったことを、
ぜんぶそのまま受け入れて生きていける人なんていない」
ミチオの言葉は、
決して彼だけのものではない。
人は誰でも、
自分を守るための物語を少しずつ作りながら生きている。
そう思うと、
この物語の恐ろしさは決して他人事ではないのかもしれない。
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ページをめくるたびに、不穏な違和感。道尾秀介さんが仕掛けた、史上最も残酷な夏休み。
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