『愚行録』|他人を語ることこそ愚行【読書感想】

読書感想
『愚行録』
著者
貫井徳郎
出版
東京創元社(初版2006年/文庫2009年)
頁数
304ページ
ジャンル
ミステリー / ドラマ
読後感
後味が悪い/ 衝撃の結末/静かな不快感
キーワード
インタビュー形式 / 人間の愚かさ / 嫉妬と虚栄心

貫井徳郎さんの作品の中でも、
人間の心理を鋭く描いたミステリーとして知られる『愚行録』を読了。

読み終えたあと、凄惨な事件の犯人よりも
「人間そのもの」が怖くなる作品だった。

これは、事件の真相を知る物語ではない。
人間の本性を覗き込む物語だ。

この物語が描くのは、単なる殺人事件の真相ではない。
人間の中にある、どうしようもない「愚かさ」だ。

※この記事では物語の核心に触れる重大なネタバレは含みません。

こんな人におすすめの一冊

  • 後味の悪いミステリーが好きな人
  • 人間の心理や本性をえぐる作品を読みたい人
  • 考察しながら読むタイプの物語が好きな人

『愚行録』あらすじ(ネタバレなし)

エリートサラリーマンとその美しい妻、そして幼い子どもたち。
誰もが羨む一家4人が、何者かに惨殺される。

事件から1年後。
未解決事件のまま、記者と名乗る男が被害者夫婦に近しい人々を訪ね、
彼らの人となりと、それぞれが思う犯人像を語ってもらう。

学生時代の友人や同僚、近隣住民など、
夫婦の周辺人物へのインタビューで物語は進み、
ところどころに謎の女性の独白が挟まれる。

インタビュー形式で進む異色ミステリー

本作は、記者が関係者に取材していく「証言形式」で進むミステリーだ。

そのため、ひとつの出来事を複数の視点から見ていくことになる。

夫婦像は語り手によって微妙に異なる。
話し手は無意識だが、
そこには嫉妬や偏見、見栄が多分に混じっている。

理想の家族のように見えた一家。
しかし語られていく過去からは、
身勝手で傲慢な一面も浮かび上がる。

そして同時に、それを語る人々の人間性も露わになっていく。

登場人物たちが語る「真実」のズレ

事件の真相に近づくにつれ、
社会や人間の本質の残酷さが浮かび上がってくる。

特に印象的なのは、
人間関係の中に潜む嫉妬や虚栄心、見栄、
そして過剰なまでの選別意識だ。

それは胸が痛むと同時に、どこか耳の痛いものでもあった。

読みながら、登場人物たちを軽蔑してしまう。
けれど同時に、「自分も同じことをしているのではないか」と気づいてしまう。

「愚行録」というタイトルの意味

この作品の魅力は、単なる事件の解明ではなく、
「人間の愚かさ」を鋭くえぐり出す点にある。

証言者それぞれが語る「真実」には、わずかなズレや偏見がある。
その積み重ねが、登場人物の本性や歪な社会を浮き彫りにし、
じわじわと重くのしかかってくる。

「愚行録」というタイトルは、事件の記録ではなく、
”人が人を語る”という人間の愚かな行いの記録なのかもしれない。

誰にも、時には自分にさえもわからない「その人となり」を、
まるで自分が理解しているかのように語る人たち。

その姿は滑稽で醜悪で、
そしてそれは、登場人物だけでなく、きっと私自身も同じなのだと思う。

読後に残る問い

登場人物たちの語り口は非常にリアルで、
「こういう人、いるな……」と感じさせる。

彼らの話を聞けば聞くほど、事件の恐ろしさ以上に、
人間そのものの怖さが浮かび上がってくる。

そして最後に明かされる衝撃の事実。

搾取する側と搾取される側。
利用する側と利用される側。

この物語に登場する愚かな人間は、特別な誰かではない。

私たちのすぐ隣にいる人かもしれないし、
もしかすると、私自身なのかもしれない。


他人を語ることこそが、いちばんの愚行なのかもしれない。


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