映画『国宝』|極道から梨園へ。喜久雄の壮絶な軌跡

映画感想

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映画『国宝』鑑賞

吉田修一さんの小説『国宝』。
上下巻ともに積読中なので、先に映画を鑑賞🎬

観る前は、正直「歌舞伎の世界を描いた芸道もの」くらいの心構えだった。
でも観終わってみると、これはもっと根源的な問い。「血」と「才能」、どちらが人を芸術家にするのかを突きつけてくる作品だったように思う。

極道から梨園へ

抗争で父を失った任侠一門・立花組出身の喜久雄(吉沢亮)。

上方歌舞伎界の名門・丹波屋当主の花井半次郎(渡辺謙)に引き取られ、
御曹司・俊介(横浜流星)と共に切磋琢磨して、芸を極めるという夢を追いかける。

長崎の極道から大阪の梨園へ。
豪華絢爛。
親子・友情・血筋…師弟・ライバル・才能。
信頼と裏切り、スキャンダルと栄光。

ここで改めて考えさせられたのは、梨園という世界そのものの残酷さだ。
血筋こそが正統性を担保する世界に、血の一滴も持たない喜久雄が飛び込んでいく。
血で継がれる「御曹司」の俊介と、才能だけで這い上がるしかない喜久雄。
二人の関係は友情でありながら、同時に構造的な不平等の上に成り立っているのだと気づくと、彼らのやりとりの一つひとつに、単なる仲の良さだけでは片付けられない緊張が滲んで見えてくる。

妖艶な喜久雄。可憐な俊ぼん。

二人道成寺。藤娘。曽根崎心中…。

劇中で演じられる演目が、そのまま二人の関係性の写し鏡になっているように感じられて仕方なかった。
女方として舞台に立つたび、二人は「男」でも「女」でもない、境界の上の存在になる。
その曖昧さが、血の呪縛からも、極道と梨園という出自の壁からも解き放たれる、唯一の瞬間だったのかもしれない。
舞台の上でだけ二人は対等だったのだと、あの美しい所作の裏にある切実さが、じわりと響いた。

長崎時代から支えてくれた春江。
才能を見出してくれた半次郎。
共に歩んだ俊ぼん。

喜久雄の葛藤と昇華

「自分には守ってくれる血が無い」と、
他は全て諦め、悪魔と取引してでも、
鬼気迫る覚悟で
ただただ、芸に邁進することを選んだ喜久雄。

恋人も親友も娘も…全てを投げ打ち、極めた芸が昇華。

この「捨てる」という行為を、観ながらどう受け止めればいいのか、正直まだ答えが出ていない。
芸のためなら何を犠牲にしても構わないという生き方は、一面では狂気であり、一面では誰よりも純粋な生き方のようにも映る。
喜久雄は悪人には見えない。ただ、芸という一点にしか、自分の存在証明を置けなかった人なのだと思う。
血で受け継ぐものを持たなかったからこそ、身体そのものに芸を刻み込むしかなかったと考えると、彼の孤独の輪郭が少し見えてくる気がした。

人間国宝に認定され、鷺娘を舞い終えた喜久雄。

雪の中、射殺された父のように。
紙吹雪の中、スポットライトを浴びた喜久雄。

この二つの「白いものが舞い落ちる」映像の反復には、震えた。
雪の中で命を失った父と、紙吹雪の中で芸の頂点に立つ息子。暴力の果ての死と、芸の果ての栄光が、驚くほど似た構図で重ねられる。
喜久雄は父を殺した血の宿命から逃げ続けてきたはずなのに、最後の最後で、父と同じ構図の中に立っている。
それは救いなのか、それとも彼が結局逃れられなかった血の呪いの完成なのか、観ている間ずっと揺れ動いていた。

「きれいやなぁ」

その目に映ったものは…

この一言が、あまりにも軽やかに響くからこそ、余計に胸に刺さる。
すべてを差し出した末にたどり着いた境地を、たった一言で言い切ってしまう喜久雄。
そこには達成感も、後悔も、諦めも、すべてが混ざり合っていて、どの感情として受け止めるかは、観る側に委ねられているように感じた。

映画館で味わう臨場感

映像はもちろん、音響も。
映画館で観るべき、テレビでは味わえない迫力に震えた。

喜久雄が舞台に立った時の観客席の眺めに鳥肌!

歌舞伎という「身体の芸術」を、スクリーンでどう見せるかは相当難しい挑戦だったと思う。
けれど本作は、役者の指先の震えや、息づかいの間まで拾い上げていて、舞台の熱がそのまま客席に伝染してくるような感覚があった。
大音響・大画面の中でその熱に包まれる時間は、しばらく席を立てなくなるくらいの余韻を残してくれた。

異例のロングラン上映。リピーターが多いのも納得。

初見では見落としているところ、いっぱいあるんだろうなぁ…

映画館での鑑賞で、余韻がより心に残る。

映画の感動をそのままに、喜久雄と俊ぼんの心の機微をより深く。映像では語りきれなかった「芸の深淵」を原作で。

積読の原作を読んだら、この記事もまた書き足したくなる気がしている。

あの圧倒的な「舞」の余韻を、音楽でもう一度。 耳にするだけで、劇場の高揚感が蘇ります。

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